【用語解説】母語ってなに?

研究用語解説
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 言語学を学ぶ上で、避けて通れない言葉が「母語」です。
でも、「母語」っていったい何?そんな疑問を、一緒に解決していきましょう!

母語ってなんだ?

 手元にあった言語学に関する本(鈴木,白畑 2012)では、このように定義されていました。

「母語(native language)」とは、子どもが生まれ育つ環境で自然に身につける言語であり、通常はこれが第一言語(first language)(L1と表記される)となる。第一言語といった場合は「最初に」獲得する言語、または、複数の言語を獲得しても「優勢な」言語という意味で使用されることもあるが、本書では、これらの区別は行わずに、母語という用語で統一する。

「母語とは、子どもが生まれ育つ環境で自然に身につける言語である」という一文でもよさそうな気がするのに、その後に様々な説明がありますね。これは、「母語」という言葉が様々な意味で使われる結果、論文や本、研究者によって「母語ってなに?」がバラバラであるが故に、「この本の中では、母語はこういう意味ですよ!」と強調する必要が出てきている、ということなのです。
なんだが、複雑な話になってきましたね……。

ひつじさん
ひつじさん

日本人なら日本語!と、もっと単純なものだと思ってました……。

 そこで今回は、「母語」という言葉がどのように使われてきたのか、そして、それを踏まえてどのように定義できるのか、ということを書いた、三宅(2023)の論文を中心に、「母語ってなに?」を一緒に考えていきましょう!

「〇〇語」を話すのは誰?

 「母語」に意味が似ている言葉として、「母国語」や「国語」、あるいは「日本語」などを思い浮かべる人もいるのではないでしょうか?
 しかしながら、この4つには明確な違いがあります。日本の場合、多くの人が「日本語」を話して生活しているため、イメージがわきにくいかもしれません。
 しかし、そこには複雑な「前提」が隠れています。というのも、私たちはどうしても国と言語をセットで捉えがちですが、実際にはそうではありません。
 例えば、カナダなど、公用語が2つある国もありますし、インドには19の地方公用語が憲法で認められています。日本も、「日本語」だけを話していると考えがちですが、実際にはアイヌ語や琉球語なども話されています。
 他にも、三宅(2023)は、「日本人」というカテゴリーも、「人種」による見た目によって判断されることがあると指摘しています。悲しいことですが、いわゆる「黒人」「白人」の人々が日本語を話していても、「日本語話者」として認められない、という風潮は根強く残っています。
ここから、三宅(2023)は、日本語話者として認められるのは、<日本列島に住む/日本国籍をもつ/日本人という人種>に限られ、これが差別をも生んでいる、としています。

chat gpt で作成

ネイティブスピーカー神話

 特に、第二言語習得の世界では、いかに「ネイティブ」に近づけるか、ということが長年の課題でした。いわゆる、「ネイティブスピーカー至上主義」です。しかしながら、これには様々な弊害があります。游, 鏡(2025)は、日本における「英語ネイティブ至上主義」の問題点を、大きく3つ挙げています。
①英語コンプレックス   ・・・英語に対する完璧主義
②英語の多様性の度外視  ・・・英米の英語を標準と考え、共通語としての英語を無視
③排他的バイリンガリズム ・・・英語以外の言語への無関心

このような課題から、近年はネイティブスピーカー至上主義からの脱却が目指されています。これも、「国=言語」の偏見からの脱却の一部ともいえるでしょう。

辞書から母語の定義を考えてみる

 三宅(2023)は、様々な辞書の定義を確認し、共通点と相違点を探りました。
それによると、母語とは、
幼児期に習得したもの、周囲の人が話すのを聞いて習得したもの、自然に習い覚えたもの、最初に習得したもの、
と様々な定義があったとのことです。ここから、どのような辞書やサイトを参考にしたかによって、「母語」の理解が異なってしまうことを問題点として挙げています。
 英語では、mother tongue(「母語」最初に習得した言語)と、native language(「母国語」所属する国の言語)の訳し分けがみられる、としています。しかし、この区別がない辞書もみられ、やはり説明に一貫性がない点を指摘しています。
 しかしながら、このような記述によって、「母語」を説明できそうな要素が集まりました。

母語を説明する要素

①幼児期からの習得言語
②最初に習得した言語
③母親や周りの人から習い覚えた言語
④自然に習得した言語
⑤最も習熟している言語

研究の世界の「母語」

 三宅(2023)はさらに調査範囲を広げ、様々な論文で「母語」がどのように使用されているか調べました。まずは、Ciniiで何件の論文に「母語」がタイトルや概要に含まれるかを調べたところ、下のグラフのようになりました。
 こうしてみると、2000年代から急増したことが分かりますね。

三宅(2023)をもとに筆者作成

 続いて、「母語」と言う言葉がどんな言葉と一緒に使われていたかを調べたところ、以下のようになりました。ここから、母語と言う言葉は、教育の文脈で語られることが多いことが分かります。
 

三宅(2023)をもとに筆者作成

 それでは、日本語教育の分野では、どのように使われているのでしょうか。調査対象を「日本語研究・日本語教育文献データベース」に切り替えてみました。
 三宅(2023)は本文も確認し、「母語話者」で1単位として扱われているケースが多く、「日本語母語話者」と「非母語話者」の比較研究が行われていることを指摘しています。
 このように、「母語」という言葉は、日本語教育の分野で多く使われており、その多くはいわゆる「日本語ノンネイティブ」の対比語として用いられていることが分かります。

「母語」の多様性の整理

 改めて、「母語」と一口に言っても、そこには様々な意味が含まれていることを実感頂けたと思います。
 三宅(2023)は、言語権の研究の大家、Skutnabb-Kangas(1984)の定義を日本語訳してくれています。

基準定義
習得時期(origin)最初に覚えた(習得した)言語
アイデンティティ(identification) 
 a. 内的(internal)
 b. 外的(external)
a. 自分のものである言語/最も自分らしくいられる言語
b. 他人からネイティブスピーカーとして認められる言語
能力 (competence)最もよく理解できる/習熟している言語
使用頻度(function)最もよく使う/使用頻度の高い言語
Skutnabb-Kangas(2014), 三宅(2023)訳をもとに筆者作成

 日本に住む日本語話者は、基本的にこれらすべての基準を満たしているとされています。つまり、
「日本語が最初に覚えた言語で、最も習熟した、最も使用している言語であり、自分の言語であることを自らも他人も認めている」状態ということです。
 しかしながら、言語的少数派(日本でいうと、アイヌ語や琉球語を話す人々)は、公的な場では多数派言語(日本の場合、日本語)を使うことが多くなり、結果として上記の基準を満たすことができません。しかし、彼らにとって少数派言語は、紛れもなく母語である、という矛盾が生じるのです。

 そして、もう一つ問題があります。それが、「母語」=「母から受け継がれた言葉」=「継承語」となってしまう可能性です。これでは、「親の母語」=「子の母語」ということになってしまい、やはり実態にそぐいません。
 ですが、Skutnabb-Kangasの定義をまとめると、
「最初に覚え、最もよく理解でき、よく使い、自分自身もまた他の人からもその言葉ができることに一体感を持てることば」が「母語」の定義ということになります。しかしながら、多文化の子どもの場合、こういった条件や定義が当てはまらないことがある、ということは忘れてはいけません。

まとめ

 このように、母語の定義は、特に様々なバックグラウンド(背景)をもつ人々も包含しながら、様々な議論が行われてきました。
 基本的に、第二言語習得においては、「最初に身に着けた言語/最も習熟yしている言語」というだけで、今回取り上げたような言語権やアイデンティティまで話が及ぶことはまれです。
しかしながら、言語を学ぶ、ということは、基本的に言語的少数派が言語的多数派の言語を”学ばされる”という構図が隠れていること、そして人々の思いやアイデンティティがかかわってくるということは、忘れてはならない問題です。

この記事を書いた人

ぽめ先輩

日本のどこかの大学院で勉強中のポメラニアン。
TOEIC 最高得点 730点、中学校教諭一種免許状(英語)、高等学校一種免許状(英語)を取得しています。
専門は英語教育史、英語学、第二言語習得、心理学、教育学です。
好きなものはおさんぽとアイドルマスターです。

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参考・引用文献

鈴木孝明, 白畑知彦. (2012)『ことばの習得 母語獲得と第二言語習得』くろしお出版.
三宅和子. (2023)『「母語」を問い直す―曖昧な意味に潜むイデオロギーと誤解の根源―』「東洋大学人間科学総合研究所紀要」25. pp.69-89.
游瀚誠, 鏡耀子(2025)『ネイティブスピーカーリズムがもたらした言語教育の課題 ―「言語権」の視点からの解決策の提示―』「社会言語科学会 第49回大会発表論文集」pp.275-278. 社会言語科学会 第49回大会発表論文集(電子版)

Tove Skutnabb-Kangas. (2014) Short definitions of mother tongue. https://www.yumpu.com/en/document/view/23038160/short-definitions-of-mother-tongue-tove-skutnabb-kangas

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