2017年に小学校の学習指導要領が改訂され、小学校から本格的に英語を学ぶようになりました。小学校で英語をやるべきか否か、という議論はずっとあったのですが、近年になって実現した形です。そんな小学校英語がどのように研究されてきたのか、小学校英語教育学会を中心に見てみましょう!
ということで、今回読んでいく論文はこちら!
それぞれの論文の目的
どちらの論文も、これまでの小学校教育学会で行われてきた研究成果をまとめることが目的であることは一致しています。
しかし、分析方法や、分析対象が異なりますので、整理しておきたいと思います。
手法: システマティックレビュー(明確な基準を設け、分類、抽出する手法)
対象: 研究分野・研究方法、指導要領変遷に合わせたキーワード抽出
手法: ナラティブレビュー(類似のトピックの論文を要約し、まとめる手法)
対象: 研究トピック・分野の頻度分布、経年変化、各分野内で見られる内容的な傾向
ナラティブレビューについては、以下の記事で詳しく説明しています。

それぞれの論文の分析対象・方法
本田ほか (2020)
研究対象: J-STAGE にアップロードされている JES Journal 第 3 号から第 18 号(2003–2018 年)までの論文と第 19 号(2019 年)に掲載されている論文の計 189件
研究方法: 第一筆者、第四筆者がタイトル・概要を基に以下の5特性(feature)、18カテゴリー(category)に分類
| 5特性 | 18カテゴリー |
|---|---|
| リサーチタイプ | 理論、文献、実証、実践、その他 |
| 研究対象 | 小学(校/生)、中学(校/生)、大学(校/生)、教員、その他 |
| 研究目的 | 仮説生成、仮説検証 |
| データタイプ | 質的、量的、混合、その他 |
| (教育的)介入 | 無、有 |

複数人で分類することで、一人のバイアス(偏見)によるものではない、客観的な研究になるように工夫しているよ
萬谷ほか(2022)
分析対象: 小学校英語教育学会紀要』(第 1 号~第 11 号)及び JES Journal (Vol. 12~Vol. 21)に収録されている全論文 242件
研究方法: 各論文の研究分野を、研究者4名の合議によって決定する。研究分野の特定は1論文につき最大5つまで
研究分野は記念誌理論編の節構成を基に作成した、以下の19カテゴリ
①目標・目的
②第二言語習得
③言語材料
④聞くこと
⑤話すこと
⑥読むこと
⑦書くこと
⑧教師の発話
⑨教材
⑩指導法
⑪情意
⑫指導者
⑬教員養成・研修
⑭評価
⑮小中連携
⑯他教科、CLIL
⑰特別支援教育
⑱異文化・国際理解
⑲世界の小学校英語
本田ほか(2020)の結果と考察
リサーチタイプ
リサーチタイプは、「理論、文献、実証、実践、その他」に分類する計画でした
理論 (6件) 第二言語習得理論に関する内容など
文献 (20件) 海外事情や指導要領、教科書・教材、評価、学習指導に関する研究
実証 (89件) 調査や実験を行い、分析することで理論の妥当性などを調べる研究
実践報告(50件) 実際に指導法を用いた授業でどのような効果、反応があったかに関する報告
その他(24件) 教員養成と研修の紹介、指導要領、研究授業、語彙・カタカナ語、学校運営、音韻教材、指導資料、自治体カリキュラムなどに関する内容

一口に小学校英語の研究と言っても、いろいろな手法やテーマがあるんですね
研究対象
研究対象は、「小学(校/生)、中学(校/生)、大学(校/生)、教員、その他」に分類する計画でした
各項目ではなく、全体的な整理・分析だったので、要約や加筆をしながらまとめます。
小学校英語に関する学会雑誌のため、小学(校/生)を対象とした研究が89件で最も多く、大学(校/生)も15件と生徒を対象とした研究の中では2番目に多い結果となりました。これは、研究や実験の都合上身近な大学生を対象に行う研究が多いためであると予想できます。もしくは、小学校教員を目指す大学生を対象にした可能性もあります。
最多の小学(校/生)の次に多かったのが教員(40件)で、現職(小・中、大学院生(現職)、管理職,、JTE、ALT などが含まれていました。
その他(41件)に属する研究では、カリキュラム、 指導案、 評価方法・評価シート、 教材・教科書(他教科を含む)、ICT などが対象になっていました。
実証研究・実践報告における教育的介入の有無とデータタイプ
教育的介入とは、ただ観察やアンケートを行うのではなく、論文の筆者が実際に指導法や教材を試すことを指します
介入あり: 45件 介入なし: 79件
筆者が調査・実践に介入しているかの記載がない: 15件

どんな調査をしたか分からないと、追試や議論が難しくなるので、できるだけ調査方法は詳しく書いてほしいですね…。
データタイプについて
量的(数字で表される)データの分析: 64件
推測統計ではなく、度数・パーセンテージのみの記載: 22件
実験デザインに基づく研究: 12件
データの対象: アンケート、テスト、音響音声(Praat)、コーパス、マイニング
質的(文字で表される)データの対象: 参与観察、ジャーナル分析、インタビュー、評価シート、集団討論会の発言記録、自由記述など

実験による研究が少ないのは、対象が児童になるため、実験が組みにくいこと、倫理的な配慮があると考察しているよ
実証研究・実践報告における研究目的と研究手法
研究目的は、「仮説生成、仮説検証」の2つに分類する計画でした
仮説生成型: 84件
仮説検証型: 26件
その他: 29件
研究手法
量的研究対象: アンケート、リスニングテスト、ポートフォリオ、音響音声、コーパス、マイニング、COLTなど
統計処理: t-test、ANOVA、Chi-square、Correlation、Multivariate、Factor analysisなど
質的研究手法: ナラティブ、ライフストーリー、(M)GTA、SCAT、TEM、KJ法など

それぞれの研究手法については、今後詳しく別記事を出して紹介する予定です。少々お待ちください……。
小学校英語における研究動向(キーワード分析)
この研究では、学習指導要領に合わせて、3つの時代区分を設けています。
①2002~2009年 「小学校英語導入期」
②2010~2017年 「小学校外国語活動必修化期」
③2018~現在 「小学校英語教科化期」
そして、共通するキーワードをカテゴリー化し、各時代に変化があるのかを調べます。
各カテゴリーの登場頻度は以下の通りです。なお、実際にどのようなキーワードを同じカテゴリーに分類したのかは、元の論文の付録に記載されていますので、気になった方はそちらも見てみてくださいね。
| カテゴリー名 | 小学校英語導入期 | 小学校外国語活動必修化期 | 小学校英語教科化期 |
|---|---|---|---|
| 小学校英語 | 22 | 20 | 3 |
| 変遷 | 4 | 5 | 3 |
| 校種間・地域連携 | 7 | 12 | 1 |
| 異文化・他教科 | 4 | 2 | 1 |
| 諸外国 | 2 | 4 | 1 |
| 指導者 | 13 | 6 | 1 |
| 教員研修・養成 | 15 | 15 | 8 |
| カリキュラム | 5 | 4 | 2 |
| 指導(学習)方法 | 11 | 21 | 6 |
| リスニング | 2 | 1 | – |
| リーディング | 3 | 3 | – |
| スピーキング | – | 1 | – |
| 発音 | – | 2 | 3 |
| 文法 | – | 3 | 3 |
| 語彙 | 5 | 14 | 6 |
| リテラシー | 16 | 23 | 9 |
| コミュニケーション | 2 | 3 | – |
| 教材・教具・教授内容 | 7 | 22 | 7 |
| 個人差(学習者) | 5 | 27 | 3 |
| 個人差(指導者) | 4 | 5 | 3 |
| 評価 | 11 | 13 | – |
| 理論 | – | 3 | 1 |
| 言語習得 | 1 | 4 | 1 |
| 研究方法 | 9 | 19 | 12 |
| 特別支援 | – | 4 | – |
| その他 | 8 | 24 | 3 |

それでは、それぞれの時代の特徴を見てみましょう!
小学校英語導入期(2002-2009)の特徴
小中学校の連携や、教員の養成・研修、児童とのインタラクション、文字と読みの指導などに多くの関心が向けられていたことが特徴です。文字に関しては、導入の方法や、指導の方法に関するキーワード(アルファベットの指導法、フォニックス、文字導入など)があがっています。
特に多くみられたのが、教員養成や研修に関するキーワードで、導入期において今後の小学校英語を進展させようとする動きではないか、と解釈しています。一方で、研修や大学での講座、カリキュラム、指導計画の模索などにとどまっている、とも指摘しています。付録を参考に、実際のキーワードを見てみると、「教員研修、現職教員研修、大学に於ける公開講座」などがでてきており、まだまだ効果の高い研修が行われていなかった、検討段階に至っていなかったであろうことが推測できます。
また、教材教具に関して限定的な研究になっている(ICT、英語ノート、フラッシュカードなど)こと、評価に関する研究がほとんどみられない(11件のみ)ことを指摘しています。これは、当時英語教育は科目という扱いではなく、評価や実践的な指導にまで研究需要がなかったためではないかと考えられます。
調査方法に関しては、意識調査や面接調査を含めた、量的・質的研究がいくつか見られます。
小学校外国語活動必修化期(2010-2017)の特徴
まず、児童のコミュニケーションに関する項目の増加がみられたことが特徴です。これは、学習指導要領でコミュニケーション能力の育成が重要視され始めたためではないかと考えられます。
また、語彙と読みや指導法、教材・教具、評価に関する研究も大幅に増加しており、語彙ネットワークや単語の親密度などのキーワード、リーディング方略や読み聞かせなど、英語教育全般で論じられている内容に近いものが研究されています。これは、全国の小学校で外国語活動が必修になったことで、小学校英語の研究がより細分化されたためだと考察されています。
また、諸外国の小学校英語教育にも目が向けられた時期でもあります。キーワードとして、韓国、台湾、フィンランドの英語教育が上がっています。
また、児童の情意要因(アイデンティティ、意欲、不安など)も頻出キーワードとなっており、個人差にも関心が集まっていることが分かります。
小学校英語教科化期(2018~)の特徴
これまでと比較して、より研究の内容が細分化・専門化してきている、と指摘しています。今後も、徐々に専門性が増していき、中学校・高校英語教育研究に近づいていくのではないか、と考察しています。
実践研究・報告ではどんな分析をしているのか?
まずは、この論文における「実践研究」の定義を確認しましょう。
Borg(2010)での定義を参考にしており、以下の3つのポイントを満たすものを、「実践研究」と定義し、今回の分析対象としています。
①体系的な探究(研究上の問いに答えるためにデータ収集をしている)
②主体は教師であり、その教師が指導する文脈で行われたもの
③教師が自身の仕事についての理解を深め、よりよい指導や学習に貢献
することが目的である
そして、以下の項目で、コーディングを行いました。
| 分析項目 | 分析内容 |
|---|---|
| 研究課題の種類 | 変化志向/理解志向 |
| 研究課題の設定理由 | 実践上の問題点/著者の関心/研究上の知見 |
| データの収集方法 | 質問紙(評定型/自由記述型)/テスト/授業記録・観察/インタビュー/ 会話・作文 |
| データの分析方法 | 量的分析(記述統計のみ/推測統計)/質的分析(データの提示/ 質的研究手法) |
それでは、各分類項目について、細かく見ていきましょう。
研究課題の種類
研究課題の種類は、「変化志向」と「理解志向」に分類されています。この論文では、それぞれ以下のように定義されています。
特定の授業実践の前後で指導効果が見られるか?
授業中の学習者の実態や、授業中に起こっていることがどのようなものか?
結果としては、変化志向のものが40件(87.0%)、理解志向のものが6件(13.0%)となっていました。

こんな授業をしたら、どうなるだろう?という研究が多いと考えられますね
研究課題の設定理由
研究課題の設定理由は、「実践上の問題点」「著者の関心」「研究上の知見」に分けられています。
「実践上の問題点」は、研究者が実践をしている中で見出した悩みや問題点から課題を設定しています。このような研究は9件(19.6%)見られ、全てが「変化志向」の研究でした。つまり、「この教え方ではうまくいかないな……。こんな風に変えてみるとどうなるかな?」という研究が行われた、ということが分かります。
次に、「著者の関心」は、悩みや課題についての言及がないもの、と定義されています。これは12件(26.1%)行われており、こちらも全てが「変化志向」の研究でした。「こんな教え方をしてみると、どうなるのかな?」という研究であると考えられます。
最後に、「研究上の知見」は、先行研究から課題を設定しているもの、と定義されています。これは25件(54.3%)みられ、そのうち「変化志向」が19件、「理解志向」が6件見られました。ここから、小学校教育研究では、先行研究の追試や、深化が積極的に行われていることが分かりますね。
データの収集方法
データの収集方法に関しては、以下の中からどの方法を用いているかで分類を行いました。
質問紙・・・「アンケート」「授業の感想」「振り返り」。
テスト・・・ペーパーテストだけでなく、発音や音読も含む。
授業記録・観察・・・教師の発言や生徒の反応などを記録する。
インタビュー・・・教師や生徒に聞きとり調査を行う。
会話・作文・・・英語によるものを対象とした。
今回の論文では、同じ論文でいくつかの手法が用いられている場合は、全ての手法をコーディングしています。

例えば、質問紙とテストを使って、生徒が授業についてどう感じたか、またどんなことが身についたか、ということを調べる研究の場合、「質問紙」「テスト」の両方にカウントされます!
それでは、結果を見てみましょう!
- 質問紙(評定)・・・26(28.9%)
- 質問紙(自由記述)・・・26(28.9%)
- テスト・・・28(31.1%)
- 授業記録・観察・・・6(6.7%)
- インタビュー・・・3(3.3%)
- 会話・作文・・・0(0%)
- データ収集方法の記述なし・・・1(1.1%)
このような結果になった理由として、以下のような点が指摘されています。
①質問紙やテストが多く、インタビュー・授業記録が少ない
→児童を相手にインタビューすることが難しい。教員の負担が大きい。
②会話・作文が0
→児童の実態を知る手法として適当でないため
③質問紙、テストが多い
→変化志向の研究課題が多いため、数値をデータとして扱っているものが多い
ここから、小学校英語特有の問題点や、小学校英語を研究されている方々の課題に合った研究手法が選ばれていることが分かります。
小学校英語を研究してみたい!という方は、どう課題を検証するかを決める時に、ぜひ参考にしてみてくださいね。
データ分析の方法
それでは、質問紙やテストで収集したデータは、どのように処理されたのでしょうか。その多くは、「記述統計のみ」「データの提示」として処理されています。
つまり、そこからさらに統計ツールにかけて有意差検定を行う……といった、教育心理学的なぶんせきはなかなか行うことができていないということです。加えて、質的研究(数字で表せない、自由記述やインタビューを分析する研究)が少ないことも、著者が教員であることが多く、時間的制約から実施が難しかったのではないか、としています。
まとめ
ここまで、小学校英語はどのように研究されてきたのか?という分析について確認してきました。小学校英語研究に携わる方々には、教鞭をとりながら研究もされている方が多く、また対象が幼い子供であることから、どうしても研究手法が限られてしまうことが課題としてあげられていましたね。
しかしながら、教師である方が多いことから、授業の中で気が付いた課題を解決するための実践的な研究が多いことも特徴です。理論が先行しがちな英語教育研究の分野の中でも、非常に実践に近い研究が行われている領域であると感じました。
ここまで、本田ほか(2020)の論文を中心に読んできました。ここでいったんココアブレイク……。
ここからは、萬谷ほか(2022)の論文の研究結果を読んでいきましょう!
萬谷ほか(2022)の結果と考察
まずは、萬谷ほか(2022)の論文では、何を調べようとしていたのか、振り返りましょう。
先ほどまで読んでいた本田ほか(2020)の論文では、「テーマ」と「どのように調べたか」が主な関心でした。しかし、萬谷ほか(2022)では、「テーマ」を深堀りしています。「どんなテーマが研究されてきたのか?」「時代ごとに各テーマにどのような変化があったのか?」を調査しています。
それでは、全体の傾向を見てみましょう。このグラフのように、指導法や教員養成・研修、指導者が上位を占めており、かなり教員が小学校英語の関心事の多くを占めていたことが分かります。各技能は、「読むこと」「書くこと」「話すこと」「聞くこと」の順になっており、個人的に小学校英語は「話すこと」「聞くこと」に重点が置かれていたイメージだったので、意外な結果でした。一方で、異文化・国際理解、特別支援教育など、英語を学ぶ上で配慮が必要な子どもたちに関する研究はまだ少ないことも分かりますね。

また、どのようなテーマが同じ論文内で扱われたのかを見ると、最も多かった組み合わせは「読むこと」と「書くこと」、次いで「情意」と「評価」、「指導者」と「教員養成・研修」、そして「言語材料」と「教材」の順になっています。比較的近いテーマが同じ論文内で扱われていることが分かりますね。
続いて、期間別の、テーマごとの論文数の推移を見てみましょう。

これを見ると、例えば特別支援教育が近年になって注目されたテーマであることや、異文化・国際理解、他教科、CLILなど、どの期間であっても研究され続けてきたテーマがあることなど、様々なことが分かります。みなさんはどんなことに気が付きましたか?よろしければ、コメントで教えてくださいね。
2008年以前 →第1期(英語活動の時代)
2009~2017年→第2期(外国語活動の時代)
2018年以降 →第3期(教科化の時代)
それでは、各カテゴリごとの傾向を見ていきましょう!
各カテゴリの傾向(目標・目的)
まずは、小学校英語の目的や目標がどのようなものかや、その意義について研究している論文の傾向を見ていきましょう。
こういった研究は文献研究と、調査報告・事例研究に大別されたと言います。
文研研究は、第1期を中心に行われていたそうです。この頃はまだ英語活動の時期であり、教科ではなかったため、様々な資料を分析し、どのような意義や根拠があるのかを吟味していたのかもしれません。
調査研究・事例研究では、英会話活動の実施の賛否を調査するなど、より実践的な論文が見られます。
メタ分析を含む、これまでの研究を総合する論文が必要である、と指摘されています。
各カテゴリの傾向(第二言語習得)
第二言語習得では、それぞれの時期ごとに特徴がみられたそうです。順番に見ていきましょう。
第1期では、文字や語彙の処理・習得に関する研究が多かったそうです。例えば、スペルの習得への影響などを調べる研究がこれに当たります。
第2期では、語彙や音声の研究が多いことが特徴的でした。例として、音韻認識の発達について調査した論文があげられています。
第3期では、音声や語彙だけでなく、文法に関する研究も多くみられるようになりました。これは、小学校英語が教科になった影響が色濃く出ていて、個人的にとても面白い結果ですね。
しかしながら、第二言語習得研究のうち、年齢の影響や学習法、指導法の効果研究は未だ少ない点が指摘されています。
各カテゴリの傾向(言語材料、教材)
言語材料に関する研究は、全ての時期を通して、語彙に関する研究が多かったそうです。語彙リストや、教材に含まれる語彙、児童が触れる語彙について調べるような研究が例に上がっています。今後は、文法や音声など、多様な言語材料に研究が広がることが望まれます。
一方の教材については、時期ごとに特徴がみられました。
第1期では市販の教材や絵本など、日々の実践や、研究者の仮説を明らかにするための研究が多いことが特徴的でした。
第2期には、2009年に『英語ノート』、2012年にHi, friends! (それぞれ、補助教材)が配布されたことで、これらの教材を分析する研究が行われました。他の教材との比較も行われていたようです。
第3期になると、同一の研究者による継続的な研究が行われるようになったそうです。
各カテゴリの傾向(4技能について)
まずは、「聞くこと」についてみていきましょう。聞くことは、大きく3テーマがみられたと言います。
①聞くことのテスト開発に関する研究
②絵本の読み聞かせに関する研究
③独自のテストで小学校英語教育の効果を検証する研究
今後は、効果的な指導法を模索していく必要がある、と指摘されています。
「話すこと」に関しては、まず、小学校英語の中心となる技能であるにも関わらず、論文数が11編だったことが指摘されている。一方で、近年になって論文数が増えていたり、指導法の効果検証が多く、実践的な研究が多いこと、情意面への影響が検討されていることが特徴的であるそうです。英語の授業で話す、ということはかなり緊張しますし、不安を覚えやすい場面だからでしょうか?
続いて、「読むこと」についてです。読むことに関しては、アルファベットの読みなどの基本的な指導に関する論文から、ストーリーテリングなど、プロジェクト重視の指導に関するものまで、様々なものが見られました。このような研究の蓄積により、日本語を母語とする児童にとって、気づきがもてるような指導実践をすることが読みの力を高めるうえで重要であることが実証的に明らかになり、その意義は大きい、と強調しています。
最後に、「書くこと」についてです。書くことについては、第1期は書くことの学習の可能性に言及した論文がありましたが、第2,3期には、教材開発や指導実践など、より教育現場に根差した研究が増えていきました。また、「書くこと」については、他の学習と関連付けられているケースが多いことも特徴としてあげられています。
各カテゴリの傾向(教師関連・指導法について)
「教師の発話」に関する論文は5件と少なく、実際の発話だけでなく、指導資料に掲載されているティーチャートークの分析も行われています。今後の研究が待たれる分野です。
「指導者」を扱った研究としては、指導形態(担任か、ALTか、専科教師か等)による影響や、教師の信条の変化を調査する研究がみられたとのことです。このような指導観の変化をとらえる試みは、教師の考え方をいかに変容させられるか、という点で有益であると考えられています。
続いて、「教員養成・研修」についてです。第1期にはそもそも何を兼修すべきか、という点が模索されましたが、第2,3期には指導者の不安や英語力に関する研究がありました。現在は、大学で行われる教職課程に関する研究もみられます。
最後に「指導法」は、カリキュラムや指導方法に関する研究を指します。その多くが2011年以前の論文であり、当時は教科として整備されていなかったカリキュラムを系統化する役割があったとみられます。近年は指導法を客観的に検証する研究が増えてきてはいますが、今後も仮説を検証する研究を続ける必要があると考えられています。
各カテゴリの傾向(情意)
情意研究は、どこに焦点が置かれるかによって、大きく4つに大別されました。
①児童のやる気や学習意欲、自律性の向上
②指導法や教具の変化を検証する際、情意面の変化に着目する
③児童の情意面の自己評価
④学年による変化、情意と英語運用能力の関係
各カテゴリの傾向(評価)
評価についての研究は、
①テスト開発・検証に関する研究 (第1期に多い)
②振り返り・自己評価に関する研究(第2,3期に多い)
の2つに大別されます。
しかしながら、観点別学習状況の評価に関する研究が皆無であることから、最重要課題としてあげられています。
各カテゴリの傾向(小中連携、他教科・CLIL)
「小中連携」については、様々な切り口からの研究が見られます。能力や語彙、動機づけなどです。近年減少傾向にあるテーマだそうですが、その重要性も同時に指摘されています。
CLILとは、簡単に説明すると、英語で他教科の内容を学ぶことを指します。英語教材の内容を充実させることを目的としたものはもちろん、児童の知識・技能、情意などへの影響も検討され始めています。
各カテゴリの傾向(特別支援教育、異文化・国際理解)
「特別支援教育」については、2012年以降の5編しかない点が最初に指摘されています。児童のつまずきや困難さがどこにあるのか?という点が重要な課題であるため、今後の研究の蓄積が待たれます。
「異文化・国際理解」に関する論文には、大きく2つの傾向がありました。
①異文化交流・国際交流の実践
②他教科との連携で国際理解の内容を扱う実践
各カテゴリの傾向(世界の小学校英語)
国別では、韓国(8)、台湾(4)、中国(3)、アメリカ(2)、タイ、カナダ、スイス、フィンランド(1)となっていました。
内容別に関しては、教科書や教材分析、教員養成、目的など、多岐に渡ります。現地の児童に調査を行った研究もあり、今後も様々な切り口や手法が期待される分野です。
全体のまとめ
今回は、「小学校英語」というテーマでどのような研究が行われてきたのかを見てきました。その時々の小学校英語の立場や教材、教員養成の状況などによって、様々な変化がみられましたね。近年は、教育研究においても実験を用いた科学的な手法や、データを基に仮説を検証しようという試みも増えてきており、ますます面白い研究が増えていきそうです。
これまでに研究されていなさそうだけど、気になる!ということがあれば、ぜひ卒業論文などで取り組んでみてくださいね。
今回は、個人的に今までで1番力を入れた記事でした。最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
この記事を書いた人
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引用・参考文献
本田勝久、田所貴大、星加真実、染谷藤重(2020)『小学校英語における研究動向― JES Journal のシステマティックレビュー ―』「小学校英語教育学会誌」20. pp. 351-366.
文部科学省(2017)『小学校学習指導要領』https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm
文部科学省(2017)『小学校学習指導要領 解説』https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm
萬谷隆一、堀田誠、鈴木渉、内野駿介. (2022)『小学校英語に関する先行研究の収集と統合』「小学校英語教育学会誌」,22. pp.200-215.



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