新しい言語は何歳まで身につけられるの?

第二言語習得

新しい言語は、学び始めるのが早ければ早いほど身につきやすい、というのを聞いたことがあるかもしれません。それって、本当なのでしょうか?
今回は、第二言語習得Language Acquisitionを語る上では避けて通れない、クラッシェンの意見を聞いてみましょう。

ということで、今回一緒に読んでいく論文はこちら!

info

タイトル: Lateralization and the Critical Period (側性化と臨界期)
著者: Stephen D. Krashen (S.クラッシェン)
掲載雑誌: The Journal of the Acoustical Society of America 52(1A)
掲載年: 1972

おお、タイトルからして難しそうです……。一緒に、ゆっくり読んでいきましょう!目次もあるので、無理せず少しずつ読んでみてくださいね。
今回の論文は、以下のサイトからpdf版を読んでいます。

https://www.researchgate.net/publication/243499352_Lateralization_and_the_Critical_Period

こちら、筆者のクラッシェン本人が掲載しているので、著作権的にも問題ありません。

タイトル

まず、今回はタイトルから確認しましょう。

Lateralization側性化 and the Critical Period臨界期 


側性化も臨界期も、なかなか聞きなれない言葉ですね……。

側性化

子どもが成長するにつれ、右脳、左脳それぞれが明確に役割分担されること。
一般的には、言語機能は左半球に側性化されるとされています。(佐々木,1987)

臨界期

ある物事を身に着けられる限界の時期のこと。
言語学では、臨界期仮説というものがあり、大人になってからの言語学習では、完璧に身につかないと考える人もいます。言語の臨界期は、一般的に思春期頃とされます。

つまり、人間は成長すると脳の言語を司る部分が確立されてしまい、言語学習が難しくなるのでは?という意見がある、というのがタイトルに反映されているわけです。
例えば、日本語では母音は5種ですが、英語では15種類あります。日本語が話される環境で育った子どもは、日本語を聞き分けるのに最適化され、それが固定化されていきます。そのため、その時期を過ぎると、学習が難しくなる、ということなんですね~……。

まず、前提からして難しいわ!!という話ですが、一緒に頑張りましょう!

概要

次は、概要を見てみましょう。
クラッシェンの名前や大学名が書いてあるところの下のブロックが概要です。(New evidence is…から始まります)

1文目を読んでみると、どうやら、Lenneberg(1967)という人が提唱した、言語習得の臨界期を修正する新しい証拠が提示された、と書いてあります!
そう、実はこの論文は、少し前に発表された臨界期の時期を、実はこうなんじゃない?と投げかける内容になっているのです。

そして、少し飛んで上から7行目。Genie という名前が見えますね。これがこの論文のキーパーソンです。どうやら、11年間孤独に苦しめられ、その後言語を習得した少女のようです。

これで、キーワードが出揃いました!

キーワード

臨界期、Genie

では、いよいよ内容に入っていきましょう!

先行研究と目的

63p中段から64p上段にかけて、主な先行研究と、この論文の目的が書かれています。順番に見ていきましょう!

先行研究①

まず、最初に出てくる Biological Foundations of Languageは、Lennebergが書いた本のタイトルです。約500pある大作です。さすがのぽめも手が出ません……。
さて、その中で、Lennebergは自然な言語習得は”by mere exposure”によってのみ、臨界期(2歳~思春期)まで起こる、としているそうです。ちなみに、この論文にたくさん登場するpubertyは思春期をさす言葉です。
 さて、””(ダブルクォーテーションマーク)で囲んでいるということは、きっとキーワードですね。これは「単に触れること」と訳すことができます。もう少し言葉を補うと、「ただ母語に触れるだけで、自然な言語習得は2歳~思春期まで起こる」ということですね。

Automatic acquisition from mere exposure to a given language seems to disappear after this age (poverty). Foreign accents cannot be overcome easily after puberty. (Lenneberg 1967: 176)

この言葉から分かるように、Lennebergは、外国語のアクセントは思春期を過ぎると習得が難しい、と考えています。これは、タイトルにもあるように、脳の柔軟性が失われ、母語を聞き分けたり、話すのに最適化されるからです。先ほども触れたように、特に音声面は、思春期以降は習得が難しい、と現在でも考える研究者はいます。

先行研究②

続いて、Scovel(1969)の研究にもKrashenは触れています。(63pの下から6行目)
どうやら、臨界期の証拠を提示した研究のようです。

it is futile無駄だ for foreign language teaches to attempt~しようとする to rid取り除く their older students of their accents.

 Scovelも、ある程度年齢を重ねた学習者から母語の影響を受けたアクセントを取り除くのは難しい、と考えているようです。Krashenが引用しているScovelの論文(Foreign Accents, Language Acquisition, And Cerebral Dominance 1)は、9pほどでしたので、簡単にまとめます。

 この論文は、子どもと大人の言語習得の違いがなぜ起こるのか、というのを先行研究を元に考察しています。Scovelは、子どもはすぐに第二言語のアクセントに対応できるのに、大人は苦戦するのはなぜ?と疑問を持ち、様々な文献を調べています。そして、その理由として、最初は子どもは無意識に言語を学ぶが、大人は意識的に学ぶことではないか?と考えていましたが、バイリンガルなど例外もあることに気づきます。こうして、側性化が原因ではないか、という結論にたどり着くのです。

Krashenは、これらの先行研究を踏まえながら、neurolinguistic(神経言語学)の観点から、この「大人は何歳まで言語を身に着けられるの?」という問いの答えを探していきます。

側性化の発達 ―THE DEVELOPMENT OF LATERALIZATION―

脳の片側にダメージを受けた子どもたち The effect of unilateral brain damage in children

ここでも、Lennenbergの研究を引用しています。前提知識として、以下の文を確認しましょう。

cerebral脳の dominance優位性 for language is first detectable検出可能 between ages three and five and becomes graduallyだんだんと stronger, the until puberty思春期, by which time the degree of dominance of the left hemisphere左脳 is permanently永久に established確立される.(p.64)

+α、脳神経外科医の吉武先生が、右脳、左脳の役割をまとめてくださっているので紹介します。

左脳の働き右脳の働き
言語的ほとんど非言語性、音楽性
観念的形や外見に対する感覚(唯物的)
分析的合成的
部分的全体的
算術的かつコンピュータ的幾何学的かつ空間的
吉武「左利きと脳」より引用

以上のことから、言語は左脳の働きによって習得されることが分かりますね。
そのうえで、Lennenbergは、10歳までに右脳に損傷をうけた子どもは、大人よりも言語障がいを起こしやすいことを指摘しています。つまり、小さな子どもは左脳だけでなく、右脳でも言語を処理しているため、右脳にダメージを受けると、言語活動に影響が及ぶ、ということです。しかし、大人は影響が小さいことから、側性化が起こっていると考えられる、ということですね。

このような研究から、5歳前後で側性化が起こると考えられています。

心理テストのデータ Data from psychological testing

側性化のもう一つの根拠として、MacFie(1961)とFedio and Mirsky(1969)が脳の片側にダメージを受けた子どもを対象に行った、心理テストをあげています。
この研究では、脳の片側へのダメージの影響は、子どもも大人も同等であると結論付けています。
結果は、以下の表のようになりました。

左脳にダメージ右脳にダメージ
影響あり言語テストの成績立体・空間把握のテストの成績
影響なし立体・空間把握のテストの成績言語テストの成績
Krashen(1972)を基に筆者作成

このテストによると、おおむね6歳ごろまでが臨界期と考えられますが、この研究自体が臨界期を調査することが目的ではなかったため、結論は保留されています。

二分聴取 Dichotic listening

二分聴取(Dichotic Listening)とは、ヘッドホンなどを実験協力者につけてもらい、左耳、右耳それぞれ違う音声刺激を流す実験手法のことです。例えば、右耳からはりんご、バナナ…、左耳からは1,31,18…などと聞こえてくるようにする、といった感じです。

この実験によると、一般的に右耳(左脳で処理)は言語情報の処理に優れており、左耳(右脳で処理)は非言語情報(周りの音や音楽の和音など)の処理に優れていることが分かりました。

思春期までに側性化する、という仮説の場合、成長するにつれてこのような耳の優位性は高まっていくと仮定します。なぜなら、脳の分業化(つまり、側性化)が進んでいくからです。
一方、5歳までに側性化する、という仮説の場合、5歳までは優位性が高まっていくけれども、5歳以降は変化しない、と予測します。

では、どちらが正しいのでしょうか?Krashenは、誤り率(percent of errors)を調べることで検証しようとします。それによると、右耳だけが言語処理に長けている(誤り率が低い)という結果は、4~9歳までの子どもでも大人でも得られませんでした。この結果は、4歳までに側性化が完了することを示しているのでは?とKrashenは考えています。

転移と脳の可塑性 Transfer and cerebral plasticity

Krashenは、転移を以下のように定義づけています。

“Transfer” refers to the ability of the minor hemisphere劣位半球 to take over 引き継ぐthe language function in case of serious injury深刻な障がい to the dominant hemisphere優位半球.

劣位半球、優位半球も聞き慣れない言葉です。リハビリテーションセンターいそ(2021)が非常に分かりやすい説明をしてくださっているので引用します。

右脳・左脳で役割分担する場合、右脳は左半身のほとんどを、左脳は右半身ほとんどをコントロールしています。また、役割上では「優位半球」「劣位半球」という分け方もあります。それぞれ

「優位半球」 言語や論理的思考

「劣位半球」 空間的能力、直感的理解を司っています。右利きの方は左が優位半球の場合が多く、左利きの方でも2/3は優位半球が左にあります。

つまり、ここまで見てきたように、左脳が言語を担っているため、優位半球は「左脳」、劣位半球は「右脳」を指す言葉であると分かります。言語の論文のはずなのに、かなり医療用語も出てくるので勉強になりますね。
まとめると、「転移」とは、優位半球(左脳)に深刻なダメージがあったときに、劣位半球(右脳)が言語能力を引き継ぐ能力のことを指します。

LennenbergとScovelによると、この「転移」と「側性化」はリンクしているそうです。側性化が完了してしまうと、完全なる転移は起こらない、と考えています。

そこで、Krashenは、Basser(1962),White(1961)の5歳までなら、左脳を切除しても永久的な失語症は生じないという研究結果を引用し、やはり転移・側性化は5歳までだと主張しています。

しかし、いくつかその反証となるデータも存在します。

  • White(1961) 左脳を9歳の時に除去しても、言語能力に影響なし
  • Lansdell(1969) 右脳が幼い頃に切除された左脳の言語能力を補う
  • Zangwill(1964)左脳のダメージによる失語症から回復した子どもたち(7,8歳)

Krashenは、これらのデータを通して、言語習得成功のために必要な可塑性は、左右脳の可塑性と関係している可能性がある、とします。一方で、側性化は5歳までに起こると考えられるのに、転移は思春期にも起こるということは、側性化と転移は実は直接的なつながりはないのでは?とKrashenは言います。

ここまで読んできて、皆さんはどう思いましたか?私個人としては、Krashenの結論ありきの推論のような気がするので、鵜呑みにはできないなと思ってしまいました。もっと他の論文や記事にもあたりたいですね。

さて、ここまで、Krashenは先行研究を基に、側性化について考えてきました。いよいよ、最初の問いに戻ってきます。

側性化と言語学習の関係 The relationship of lateralization and language learning

もし、側性化が5歳までに完了し、かつ臨界期とも関係ないとしたら、どうだろう?と、Krashenはこの項の最初に問いかけています。

Krashenはこれまで、母語の習得は5歳までに完了し、それと同時に側性化も起こっていくと考えてきました。一方で、Chomsky(1969)やHatch(1969)は、5歳の段階では母語習得も完全ではない、と考えています。

そして、この項はこんな言葉で締めくくられています。

lateralization側性化 may represent表す the acquisition習得 of an ability rather thanよりも the loss of an ability.

ここまで、側性化は、右脳が言語能力を失っていき、左脳に集約されていくことだと考えられていましたが、ここでKrashenは逆転の発想をします。もう少し彼の話を聞いてみましょう……。

思春期後の第一言語習得:ジーニーの場合 FIRST LANGUAGE ACQUISITION AFTER PUBERTY: THE CASE OF GENIE

ようやく、Genieの名前が出てきました。彼女は、最初に確認した通り、13年8か月の間、孤立した状態で育ちました。(詳しい生い立ちに関しては、wikipediaが1番分かりやすいと思いますので、興味がある方は参考文献リストをご参照ください。)

さて、そんなジーニーは、思春期の脳を持ちながら、言語能力はない、という状態でしたが、少しずつ言語を習得していきます。3,4語文を作れるようにもなり、SVO(主語、述語、目的語)の関係なども理解できるようになっていきました。

そんなジーニーちゃんに、まず二分聴取テストを行いました。すると、ジーニーちゃんは左耳で言語を処理していることが分かったのです。二分聴取の項で確認したように、一般的には右耳で言語は処理されます。ジーニーちゃんの場合、それが逆だった、ということです。さらなる研究の結果、ジーニーちゃんは言語、非言語どちらも左耳(右脳)で処理していることが分かりました。

そこから、通常のように、臨界期までに側性化が起こらなかった場合、側性化が通常とは違う形で起きると考えられました。そして、左脳で言語が処理されるようになるには、一定の時期までに言語刺激を受けなければならない、としたのです。

まとめと結論 SUMMARY AND CONCLUSION

この論文の主なポイントは、

①側性化は、思春期よりも早く起こる
②第一言語の習得は、遅くても、効果的でなくても思春期以降も可能である

そこで、大人が第二言語を学ぼうとしていても、決して諦めないでほしい、とまとめています。

まとめ

さて、新しい言語は何歳まで身に着けられるの?クラッシェンが出した回答は……

通常は5歳まで!!効率を気にしないなら、何歳でも!!

でした。

しかし、これはあくまでクラッシェンの意見。さらに、この論文は約50年前の論文です。今はさらに新しい答えが出ていそうですね。
それに、クラッシェンは言語学者ですが、例えば脳科学者はどう考えているのでしょう?言語以外は何歳までなのでしょう?またの機会に、他の人の考えも一緒に読んでいきましょう!

それでは、お疲れ様でした~!!

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この記事を書いた人

ぽめ先輩

日本のどこかの大学院で勉強中のポメラニアン。
TOEIC 最高得点 730点、中学校教諭一種免許状(英語)、高等学校一種免許状(英語)を取得しています。
専門は英語教育史、英語学、第二言語習得、心理学、教育学です。
好きなものはおさんぽとアイドルマスターです。

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引用・参考文献

Scovel Tom(1969) Foreign Accents, Language Acquisition, And Cerebral Dominance 1. Blackwell Publishing Ltd. (この論文は、ミシガン大学に所蔵されています。)https://deepblue.lib.umich.edu/items/1c00e09f-4339-4a2b-a039-60dd4797ecc5
Stephen D. Krashen(1972) Lateralization and the Critical Period. The Journal of the Acoustical Society of America 52(1A)

医療法人悠悠会 リハビリテーションセンターいそ(2021)「脳の機能・構造について ~その2~」https://iso-clinic.jp/rehab/archives/539
佐々木真 (1987) 「子供の脳: 言語機能の左右差」Language Research Bulletin, 2, 1.
吉武 靖博「左利きと脳」http://www.ogorimii-med.net/column/%E5%B7%A6%E5%88%A9%E3%81%8D%E3%81%A8%E8%84%B3
wikipedia 「ジーニー(隔離児)」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%BC_(%E9%9A%94%E9%9B%A2%E5%85%90)

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