皆さんの学生時代を思い返すと、とても雰囲気がよかったクラスもあれば、生徒同士で協力する雰囲気になかなかならないクラスもあったかと思います。この差は、どこから生まれるのでしょうか?
また、学級の環境や雰囲気のことを「学級風土」(classroom climate)といい、教育心理学の中の1つの主要な研究テーマとなっています。今回は、学級の雰囲気はどのように形成されるのか?に焦点を当てた論文を中心に、読んでいきましょう!
今回の中心論文はこちら!
堀良子(2015)『学級コミュニティ感覚が学級風土に及ぼす影響』
そもそも、なぜ研究するのか?
今回の中心論文では、なぜ学級風土に研究するのかについて、「規範と逸脱」「援助といじめ」を軸に説明しています。
短くまとめると、「学級がもつ規範意識は、行動に影響する」「特に、援助行動に影響が大きい」ということが先行研究で分かっているため、研究する、ということになります。少しわかりにくいと思うので、具体例を交えてもう少し詳しく説明します。
とある学級Aでは、「いじめはいけない/友達を助けたり、手伝うべきだ」という意識があるとします。さらに、それに反してクラスメイトの悪口を言ったり、クラスでの活動に参加しなかったりすると、その生徒はそのクラスの雰囲気から浮いてしまう、またはその行動に対して批判を受ける可能性があります。つまり、友達同士助け合うべき、という「規範」から「逸脱」することにリスクがあります。
一方の学級Bでも、「いじめはいけない/友達を助けたり、手伝うべきだ」という指導はもちろん行われています。しかし、助け合わなかったとしても特に他のクラスメイトから批判されたりはしません。あるいは、援助行動をとると冷やかされることもあります。この場合、逸脱行動をとるリスクがないため、いじめが起きやすく、反対に援助行動は起きにくいことが予想されます。

このように、クラスの雰囲気、そして生徒が自分のクラスの雰囲気をどのように評価しているか、ということ、自分の行動には責任が生じる、という意識が行動に影響を与えることが、これまでの先行研究から分かっています。
このような、集団の雰囲気といじめに関する研究を、当ブログでは以下のような記事で紹介しています。こちらも合わせて読んでいただくと、より理解が深まるかと思います。
それでは、中心論文に戻りましょう。タイトルにもなっている通り、この研究のキーワードは、「コミュニティ感覚」です。
コミュニティ感覚
個人が自分のコミュニティに対してもっている関係の感情をさす(Duffy & Wong,1996)。
→この論文では、学級に対してどのような感情をもっているか?を指す言葉。
この論文では、学級に対するコミュニティ感覚が高いほど、援助行動や協力行動が多くなる、と仮定しています。
何を調べるの?
以上のことを踏まえ、今回の中心論文では、以下の2点を目的としています。
①適切な、学習コミュニティ感覚尺度を作る
②学級コミュニティ感覚と実際の学級風土の関連を探る
「〇〇尺度」というのは、簡単に言うと、〇〇を測るために必要なアンケートのことです。(簡単に言いすぎて怒られそうですが)
もう少し厳密にいうならば、心理学では、心の動きや感情、性格など目に見えないものを測定しますが、科学的手法に基づく必要があります。そのために、目で見て判断できる行動や、実験協力者が自己評価したことを数値化できるように、尺度を作ります。
今回の中心論文では、先行研究の課題を解決するため、一部改良したものを作成しています。
そして、②についてですが、実験協力者がクラスについてどのように思っているか?ということと、実際のクラスがどのくらい近いのか?や、影響を及ぼしているのか?(「相関がある」といいます)を調べます。
それでは、もう少し具体的にみていきましょう!
実験方法
調査対象は、以下の通りです。
公立中学校2校の1,2,3年生21学級,696名(女子339名,男子356名,不明1名)であった。1年生は9学級,2年生8学級,3年生4学級である。なお,分析ごとに欠損値を除外するため,分析対象者数はその都度異なる。
堀(2015)
因子分析
まずは、学級コミュニティ感覚尺度の因子分析についてみていきます。
因子分析とは、簡単にいうと、「Aの原因を説明したい!」というときに、共通する要素(因子。原因の因で覚えてね)はなにか、というのを調べることです。基本的に、原因を説明してくれるデータは全て同質のものではないため、統計ソフトなどを用いて数学的に処理し、共通点を抽出します。

なんか難しいことを言ってるけど、「共通する原因探し」をすることを因子分析というよ
そんな因子ですが、学級コミュニティ感覚尺度の質問内容を分析したところ、以下の4つの因子が抽出されました。
①愛着の因子 →学級の楽しさ、愛着
例) ずっとこのクラスでいたい。
②他者依頼の因子 →クラスのことは他の人に任せればいい
例)クラスの活動は熱心な人たちに任せておけばよい。
③積極的貢献の因子→②の逆。クラスをよくするために参加する
例)クラスの一員として、何かクラスのために活動したい。
④自己決定の因子 →クラスのことは自分たちで決めたい
例)クラスを良くするためには、自分たちで決定することが重要だ。

今回作成した質問紙(アンケート)で、上の4つのポイントを聞くことができるよ
ここから、学級に愛着があると、学級に積極的に関わりたい!という気持ちになると予想されます。
ここからは、学級風土尺度の因子分析をみていきましょう。以下の6因子が抽出されました。
①協力の因子
例) このクラスには人の気持ちのわかる、やさしい子がたくさんいる
②規律・学習志向の因子
例) このクラスのみんなは、授業中、先生や他の人の話をよく聞いている
③学級活動の因子
例) このクラスのみんなは、クラスみんなで取り組む活動に一生懸命取り組む
④自己開示の因子
例) このクラスのみんなは、自分の気持ちを気軽に話す
⑤満足の因子
例) このクラスのみんなは、このクラスが気に入っている
⑥非公正の因子
例) このクラスには、自分の意見を押し通そうとする人がいる

ちなみに、「〇〇の因子」というのは、研究者が命名するよ
このように、質問項目をいくつかの因子に分けることで、この後の考察や分析をしやすくなります。
例えば、愛着の因子が高い学級は、満足の因子も高い、などといった相関があるかどうかを分析しやすくなるのです。それでは、考察をみていきましょう!
統計ソフトによる分析
まずは、学級ごとの傾向を確認しました。コミュニティ感覚因子の平均点を算出(6件法、6段階で各質問にどれくらいあてはまるかを聞いているので、その数字の平均を出しています。)したのです。
それでは、各因子がどの因子と関連が深かったのか、みていきましょう。
①愛着因子
学級活動>協力=満足>自己開示=規律・学習志向>公正 の順で、関係が深かった!
②他者依頼因子
学級活動>協力=満足>自己開示=規律・学習志向>公正 の順で、関係が深かった!
③積極貢献因子
学級活動>協力=満足>自己開示=規律・学習志向>公正 の順で、関係が深かった!
積極的貢献因子の得点が高い学級ほど、学級風土を肯定的に見ていた。
④自己決定因子
学級活動>協力=満足>自己開示=規律・学習志向>公正 の順で、関係が深かった!
ここまで、学級単位で見ましたが、どれも関係が深い因子の順番が同じで、影響を明確にみることができませんでした。
そこで、個人単位で分析をかけてみることにしました。
その結果をチャートにしたものがこちらです。

学級コミュニティ感覚因子の得点が、それぞれ高い群、低い群に分け、分析を行っているのが分かります。
それでは、それぞれの結果をみていきましょう!
①愛着因子
愛着の主効果、風土因子の主効果、両要因の交互作用が有意でした。
※(単独の因子による効果が主効果、2つ以上の因子の組み合わせによる効果が交互作用)
また、愛着高群の方が、学級風土因子の 協力、学級活動、自己開示、満足、公正 が高いことが分かりました。
②他者依頼因子
他者依頼の主効果、風土因子の主効果、両要因の交互作用が有意でした。
他者依頼低群の方が、規律・学習志向、公正 の得点が高いことが分かりました。
③積極貢献因子
積極的貢献の主効果、風土因子の主効果、両要因の交互作用が有意でした。
さらに、学級風土の6因子全てが、積極的貢献高群の方が高いことが分かりました。
④自己決定因子
風土因子の主効果と、両要因の交互作用が有意でした。
※自己決定の主効果は有意でなかった
自己決定高群の方が、協力、学級活動の得点が高いことが分かりました。

統計ソフトによって、数学的な結果は分かったけど、結局どういうこと??
主効果がうんぬん、得点が高い低いだけでは、よくわかりませんね。堀(2015)によるまとめをみてみましょう。
愛着、積極的貢献、自己決定因子 →学級風土によい影響
他者依頼因子 →学級風土に悪い影響
ここから、先行研究でみたように、自分の行動に伴う責任への意識や、自律の意識が、学級風土によい影響を与えることが分かります。
しかし、この論文の独自性は、「愛着」という要素を調査対象に入れたところにあります。実際、クラスへの愛着はどのくらい実際のクラスの雰囲気に影響を与えるのでしょうか?
堀は、愛着(高低)、他者依頼(高低)の組み合わせ4パターンと、6つの風土因子について、さらに分析をかけました。
結果は、以下の通りです。

その結果、以下のことが分かりました。
①規律・学習志向、学級活動、公正の側面は、
愛着が高く、他者依頼が高いことで肯定的になる。
②協力、満足、自己開示の側面は、
愛着が高いことで肯定的になる。
→学級に対して愛着があることで、情緒的な関係が深まる。
学級での活動に対し、自分の責任を自覚することで、民主的で積極的なクラスが構成される。
総合考察
今回の研究で、学級での役割(係の仕事など)や、話し合いには、生徒たちの責任や自律の意識、親密感を育てる意義があることが示された。
お互いが学級に対して愛着や積極性を持っていることを、学級活動を通して知っている学級が、学級のコミュニティ感覚を高くするのではないか?
ぽめのまとめ
学級の雰囲気はどのようにして作られるのか?という疑問に対し、実は係や委員会、掃除当番など、生徒が自分のクラスでの役割や責任を自覚することが必要!という意外な結果が分かる面白い研究でした。
単にみんな仲良くワイワイと遊べるクラス、というだけでなく、それぞれが責任を果たすことができるようなクラスにすることで、もっとよいクラスになることが分かりましたね。
それでは、今回の勉強はここまで!お疲れ様でした~!
この記事を書いた人
参考・引用文献
堀良子. (2015)『学級コミュニティ感覚が学級風土に及ぼす影響』「上越教育大学研究紀要」34. pp. 91-100




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